大学を卒業して20年間銀行に勤務した。
融資担当者、および融資課長として、多くの融資案件に携わった。
ある地方都市のA支店に勤務した。
地場産業が衰退していたが、毎日、多くの取引先が融資課の窓口を訪ねてきた。
業績が悪化している取引先が多く、中小企業の与信審査をしていると、
様々な人間模様に遭遇する。
ウソや粉飾が飛び交う虚々実々の日々である。
企業の実態がどうなっているのか、社長の話をそのまま聞いていると、誤った判断をしてしまう。
毎日が緊張の連続だ。
騙されて融資をしてしまい、すぐに倒産してしまったら、責任を問われる。
しかし、厳しすぎる審査をしていては、融資額は伸びず、支店の業績は落ち込む。
担保や金利、他行とのバランスなど、様々な条件も考慮して、融資判断を決定する。
融通手形
地方都市のA支店に勤務していた際、悩まされたのが融通手形だ。
地場産業が衰退しており、何とか生き残っている中小企業は総じて業績が悪化していた。
企業は商品を売ると、売り先から手形をもらう。
このように、実際に商品が動いて、その代金の決済のために振り出されるのが商業手形だ。
しかし、業績が悪化した企業が、商品は動いてないのに、
資金繰りのためだけに振出すのが、融通手形だ。
商品が動いていないので、不渡りになる確率が高いのが、融通手形。
これに手を染めた企業は倒産する可能性が高い。
仲間取引
地方都市Aでは、地元で長年商売をしてきた会社が多く、社長同志は小さいころから知り合いだ。
少し油断していると、商売上の取引がないのに、地元の会社が振出した手形を割引に持ち込んでくる。
「あれ、この会社とは取引はなかったですよね?」と聞くと、
「いや、〇〇〇という商品を一緒に取り扱うことになってね、うちから販売したんだ」
などと言ってくる。
明らかにウソだ。しかし、割引しないと月末を乗り切ることができない。
「今回だけで、次回は割引しませんよ」などと言って、釘を指しておく。
そうしないと、その手形が決済できたら、うまく騙せたと、また、同じ手形を持ち込んでくる。
逆筋手形
手形は、商品の代金として振出されるのだから、普通は、商品を買ったB社から、
商品を売ったC社に交付される。
しかし、逆に、商品を売ったC社が、商品を買ったB社に振出すのが、逆筋手形だ。
長年の取引関係の中で、資金繰りに困っている会社に対し、商品を買ってもらっている会社が、
融通手形を振出すので、逆筋手形という。
C社としても、長年の販売先が倒産すると、売り先が1社なくなってしまうので、
やむなく、協力してしまうのだ。
「あれ、この会社は御社の仕入先でしたよね?これだけは割引できません」などと言う。
このように、日々、虚々実々のやりとりが交わされる融資窓口。
2年間も担当していると、騙されなくなってくる。