ある地方都市の支店に配属となり、取引先A社の融資担当になったが、
前任者から引き継いだ時から、問題の取引先であった。
とにかく、手形割引の金額が大きい。
特に、東京都にあるB社の手形を割引しているが、
持ち込まれる手形の金額が大きく、しかも、
決済されると、すぐに同額の手形の割引依頼があるため
割引残高が減らない。
融通手形の懸念があり、毎月、本社の審査部に稟議書を送るが、
いつも審査部の担当者から問い合わせが入り、
割引予定日ぎりぎりになって、やっと割引が承認される。
手形の信用照会の回答
その日も、B社の手形割引の持ち込みがあり、
いつものように、東京都にある〇〇銀行〇〇支店の融資課に電話した。
「手形の信用照会お願いします。
B社振出しで、金額は〇〇万円です。」
担当者の回答は、いつものように「懸念ありません」であったが、
その日は、「ところで、B社の状況はいかがでしょうか?」
「手形の金額が大きく、A社の売上からみて不自然なんですよね?」と
ざっくばらんに聞いてみた。
すると、「実は、いつも決済日になると、X銀行Y支店から、
B社の当座預金に振込が入るのです」
「振込が午後3時すぎになることもあり、迷惑しているんです」
と言うではないか!
A社の実態は?
東京都の銀行担当者が言ったX銀行Y支店とは、私が勤務していた銀行の
すぐ近くにある銀行で、A社はもちろん、B社も取引はなく、
A社の取引先、B社の取引先なども関係していない銀行だ。
なんの関係もないX銀行Y支店から、
B社の当座預金に決済資金の振込があることは、考えられない。
A社の社長に問い質したところ、割引した資金を、自分がX銀行Y支店から
振り込んでいたことを認めた。
A社とB社は、資金の貸し借りがあり、資金を融通するための手形を、
私が勤務していた銀行に持ち込んでいた。
割引した資金のほぼ全額を、そのまま振込するわけにはいかず、
現金で引き出して、すぐ近くのX銀行Y支店から、振込していた。
後から聞いた話では、X銀行Y支店に、A社の社長が午後3時すぎに来店し、
多額の現金振込を依頼してくることが何度かあり、迷惑していたそうだ。
教訓は
A社は、B社振出の手形が不渡りになる前日に、倒産した。
融資課の業務で、手形割引は、単調で面倒な業務であるが、
非常に大切な業務だ。
取引先の事業内容がよく分かり、場合によっては取引先の倒産への
入り口になることがある。
納得できない手形の持ち込みがあったら、その取引経緯を
納得できるまで調べる必要がある。
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